「幻の最強チーム」中京大中京、コロナ禍で奪われた甲子園の夢【後編】

中京大中京は 2020 年の春夏甲子園大会が中止となり、今でも”幻の最強チーム”と評する声は絶えない。インタビューの後編では、未知のウイルスに夢を奪われた、5 年前を振り返ってもらった。

「開催されていれば、普通に優勝だったな」“幻の最強チーム”中京大中京の主将・印出太一が明かす「甲子園のない季節」【後編】

2020 年 1 月 24 日、センバツ出場が決まり、帽子を投げ上げる中京大中京の選手たち。左から 2 人目が高橋宏斗、同 4 人目が主将・印出太一(カメラ・馬場秀則)

東京六大学野球リーグ・早大の主将、正捕手として 2024 年の春秋リーグ連覇の原動力となり、大学日本代表でも主将を務めた印出太一捕手(22)が、今春入社予定の三菱重工 East の練習に合流。昨年の都市対抗を制したチームで汗を流している。中京大中京(愛知)でも主将を務め、3 年だった 2020 年の春夏甲子園大会はコロナ禍で中止となったが、今でも”幻の最強チーム”と評する声は絶えない。インタビューの後編では、未知のウイルスに夢を奪われた、5 年前を振り返ってもらった。(編集委員・加藤弘士)

5 年前のこの季節を思い出す。印出がキャプテンと扇の要を務める中京大中京は前年秋の明治神宮大会を制し、センバツ大会の優勝候補とみられていた。

「新チーム発足前、2 年夏の愛知大会は準決勝の誉戦で悔しい負け方をしたんです。だから全員で目標を『神宮大会優勝』に定めて、達成できました。次はセンバツだ、春夏の甲子園連覇を目指そうと、冬場の練習も熱を入れてやっていたんです。みんなのモチベーションもかなり上がっていて」

エース・高橋宏斗(現中日)、ショートに中山礼都(現巨人)らタレントがそろい、戦力は充実していた。だが未知となる新型コロナウイルスの猛威が、日本中に迫っていた。開幕 8 日前の 3 月 11 日、1942~46 年の戦争による中断を除き、史上初のセンバツ中止が決まった。

「正直ちょっと…。少なからず、自信はあっただけに。僕に限らず、落ち込みやモチベーションの低下は大きかったと思います。全体練習もできず、自宅待機となり、不満を互いに打ち明ける機会もありませんでした。正直、野球に対する気持ちが瞬間的に切れかけたことを覚えています。キャプテンとして何かできるわけでもなく、Zoom もまだ今ほど普及していませんでしたから…。ただただ『どうしようか』と。そんな日々が続いたんです」

そして 5 月 20 日、夏の甲子園中止が決定。中京大中京のナインは感染防止に努めながら、部活動を再開していたが、再びどん底に突き落とされた。

「中止の一報を聞いて、『あ、高校野球終わったな』と…。正直、何のために練習するんだ感が否めなくて。目標がないと、チームとしても機能しないかなと思ったんです。僕らは幸い、その時にオープン戦とかでも 1 軍戦では負けていなかった。ならば“幻の代”にはなってしまうけど、最後まで負けなしで行こうじゃないかと」

8 月には甲子園でセンバツ代替大会の開催が決まった。無観客だが、印出らはここに照準を絞った。

「ラストマッチは甲子園。それが心の支えでした。ここで恥ずかしい思いをするわけにはいかない。『この年は中京大中京だったね』と言われるように、最後まで全勝で終われるようにとみんなで話して、それをモチベーションにやりきりました」

8 月 12 日の交流試合は強打の智弁学園が相手。中京大中京はエースの高橋が初の甲子園マウンドに立ち、延長 10 回、149 球を投げ抜いて 11 奪三振。9 回には、この日の最速となる 153 キロをマークした。延長タイブレークとなった 11 回、4-3 でサヨナラ勝ち。公式戦 28 連勝のまま、高校野球生活を終えた。今もなお“幻の最強チーム”と呼ばれることに、素直な思いを語った。

「あの時よりも、5 年経った今の方が『開催されていれば、普通に優勝だったな』と冷静に考えられます。当時は『どこも強い』『甲子園は何が起こるか分からない』と思っていましたが、『あの代の強さは異常だったな』『実力だけで見たら、全国制覇できたな』と“引き”の視点で見て、感じるようになりました」

一度は絶望と結ばれた青春時代。しかし今、そこから立ち直った経験が、印出の財産になっている。

「しんどくても、どんなに厳しい状況でも、自分の気持ちがゼロにならない限りは、何とかなるのかなと思いました。限りなくゼロになりかけた時、自分は一人じゃなかった。いろんな人の支えや、仲間の存在が大きかった。それに気づけただけでも、あの日々は無駄ではなかったと思っています」

球春到来。まもなく甲子園の黒土を若者たちが踏みしめ、頂点を目指して白球を追う。しかし 5 年前、そんな機会すらも奪われた世代がいたことも、心の片隅に留めておきたい。大会が無事に開催され、聖地が熱狂に包まれるのは、決して当たり前のことではないのだと。

◆印出太一(いんで・たいち)2002 年 5 月 15 日、愛知・名古屋市出身。22 歳。原小ではファイヤーボーイズに所属し、6 年時にはドラゴンズジュニアに選出。原中では東海中央ボーイズで 3 年夏にボーイズ日本代表として米国での世界少年野球大会優勝。中京大中京では 2 年秋に愛知大会、東海大会、明治神宮大会優勝。早大では捕手のベストナイン 3 度受賞。リーグ戦通算 72 試合に出場し、打率 3 割 1 分、5 本塁打、49 打点。4 年時には大学日本代表の主将としてプラハ大会、ハーレム大会ともに優勝。185 センチ、91 キロ、右投右打。

報知新聞社

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