冨田洋之の金メダルへの道:アテネ五輪体操男子団体の栄光の瞬間

2004年アテネ五輪での冨田洋之の活躍と、日本体操男子団体が28年ぶりの金メダルを獲得した瞬間を振り返る。

冨田洋之の金メダルへの道

2004年アテネ五輪の体操男子団体戦は、最終種目を残してルーマニア、アメリカ、日本がわずか0.1点差で首位を争っていました。日本の種目は鉄棒。米田功、鹿島丈博が着実な演技で得点を重ね、アメリカとルーマニアにはミスが出ました。冨田洋之が普段どおりの演技をすれば、金メダルが手に入る状況でした。

緊張の瞬間

冨田は、米田や鹿島の演技を見ているうちに、激しい緊張に襲われました。彼は後にこう振り返っています。

「代表に選ばれた時から、『最後の演技は冨田でいくから』と監督に言われていたので、役割は把握していました。練習でも精神的に負荷をかけて“その瞬間”に備えていました。ところがいざその場に立ってみると、想像と現実は全然違いました。負けたら日本に帰れない……、米田、鹿島の演技を見ていたら体がふわふわして、血の気が引いて、自分の体じゃないみたい。まずいと思って、見るのをやめました」

演技開始

鉄棒に背を向け、ストレッチをするなど自分の体の感覚に意識を向けた冨田は、演技台の上に立って腕を回し体を動かしたら、いつもの感覚に戻っていました。

「この感じならいけそうだな、と思って演技を始めました」

栄光の瞬間

最大の難関はスーパーE難度の手放れ技コールマンでした。運命の瞬間は中盤。両手を鉄棒から放し、冨田の体が上空に舞います。1回宙返り1回ひねり、そして、ガッチリ鉄棒をつかんだ瞬間、会場は歓声に包まれました。

「ものすごい歓声で鳥肌が立ちました。後は着地を止めて終わりたい」

フィニッシュに向けた大車輪に入ると、NHKの実況担当・刈屋富士雄が再び力を込めて叫びました。

「伸身の新月面が描く放物線は“栄光への架橋”だ!」

それはゆずが歌うNHK五輪中継主題歌の題名。実況に呼応するように、冨田がピタリと着地を決めました。やや前のめりだったが、踏ん張って動かなかった。

金メダル獲得

採点を見る必要はありませんでした。刈屋が「勝った、勝ちました!」と叫び、日本選手たちが抱き合いました。冨田は右手を高く突き上げ、28年ぶりの金メダルを手にしたのでした。

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